手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

衆寡大勝す(しゅうかたいしょうす)

 昨日は、学生の、谷水さん、柳沢さん、高木さんの三人が、私の小道具作りのために手伝いに来てくれました。まず、舞台で使う卵を作りました、本物の卵に穴をあけて、中身を抜き取って、「抜き卵」を作ります。

 通常、一遍に30個くらい作ります。まず、中身の抜き取りがかなり面倒です。しかも抜き取った後、熱湯で中を洗浄したり、乾燥させたり、穴に紙を張って完全にふさぐまで、全工程が数時間かかります。

 更に、その卵の中から、いくつか選別して、紙片が扇子の上で徐々に膨らんで、卵に変わる種、「甘皮卵」の製作もします。彼らは、面白がって熱心に手伝ってくれました。いずれも500年以上昔から続いている種の製法です。今ではこの演技をするのも、昔と同じ製法で種を作っているのも、私の一門だけでしょう。

 私の所ではこうした手作りの種は多いのです。サムタイの紐もそうですし、紙吹雪も、水中発火の種も手作りです。私の弟子は皆種の製法から学びます。市販の道具はありません。

 単にマジックを演じるだけでなく、その種の作り方から指導してゆくのが昔からのやり方です。弟子も初めは手内職みたいな仕事を嫌がりますが、それを学べば、誰とも違った芸が手に入るわけですから。やがて製作する価値に気づきます。人と同じことをしていては成功はないのです。すなわちプロとして生きることがどういうことかが分かって来るのです。こうして演技だけでなく、その周辺まで、全て教えることで手妻は数百年受け継がれて来たのです。

 

又も予知の話

 今年の5月に地震が来るかもしれないとブログに書いて、実際、ほとんど何も起こらなかったので私の予知は外れました。私は夢で、死んだ人が出て来て、私に何かを語ろうとしたときに、大きな事件が起きることが多い。と言う経験を持っています。

 5月には、3人の人が現れました。然しその人たちは亡くなってはいなかったのです。でも、もしかしてその人がなくなると災害の予知につながる可能性があります。然し、亡くなることもなく、地震も来ませんでした。

 

 それが今月、4日前の明け方、夢に私の父が現れました。父と私は生前仲が良かったのですが、それでもこれまで父が夢に出て来ることはありませんでした。それが現れたのです。但し、父であるかどうか判然としません。薄暗い中で後ろを向いていて、寝室の時計を見ている人がいたのです。つまり後ろ向きなのです。それなら誰だかわからないはずですが、咄嗟に私は父だと思いました。なぜそう思ったのかはわかりません。父は只立って、後ろ向きで時計を見上げていたのです。夢はそれだけでした。

 さぁ、これが大災害に結びつくものかどうかはわかりません。いい加減なことを言って外れたら人騒がせです。ただ、私の今までの経験からすると、亡くなった人が夢に出た後、7日から10日の間に何か大きな災害が起きます。

 だとすると、10月1日から、4日くらいの間に何かが起こる可能性があります。何も起こらなければ幸いです。もし何かあったら気を付けてください。飲料水などを溜めておいてください。蝋燭、懐中電灯、消火器、カセットコンロなど用意しておいてください。毎度お騒がせして申し訳ありませんが、万が一に備えておくことは必要です。

 

衆寡大勝す

 ことわざで、衆寡敵せず。と言う言葉があります。衆とは大勢のこと、寡とは少数のこと。少数は大勢には勝てないと言う意味です。確かに戦争などでは軍の数が大勢を決めるでしょう。まともに戦えば少数の負けです。

 しかし人生ではむしろ逆に作用します。ある時期まで少数でいた人たちが次の時代に突然ヒーローになります。私はこれまでいくつもの逆転劇を見ています。身近なところではクロースアップマジックがそうでした。30年前までは、クロースアップマジックで生計を立てている人はほとんどいなかったのです。

 勿論プレイヤーはいましたが、殆どかすかすの生活だったのです。それがある時期に急激にクロースアップが認知され、それに連れて仕事が増え、それまでのステージマジシャンと立場が入れ替わり、大活躍するようになりました。

 前田知洋さんなどがその先頭を走った人でしょう。無論、前田さん以前にもたくさんのクロースアップマジシャンはいたのですが、あまり大きく認められてはいなかったのです。それがひとたびクロースアップが評価されると、たちまち日本中にクロースアップのプレイヤーが増えました。

 その昔、日本のプロマジシャンは長いこと200人程度で推移していたのですが、日本中にクロースアップマジックが普及して、各都市のレストランや、バーなどでクロースアップを見せる人が増えると、プロマジシャンの人口が一気に2000人くらいに増えました。10倍です。それに反比例して、ステージマジシャンは減少して行きました。

 しかしこのままステージマジックは消滅するでしょうか。私は、ここが人生の先を読めるかどうかの岐路であると考えます。つまり、20年前にステージマジックに変わってクロースアップが出てきたときに、当時少数派であったクロースマジックに突然光が差したのです。なぜ光が差したのかははっきりしません。後付けすれば幾らでも理由は見つかるでしょう。

 とにかく、衆であるステージマジシャンが、寡であるクロースアップと入れ替わったのです。それはクロースアップにとっては素晴らしいことです。然し、ここへきてどうでしょう。ネットやDVDなどで安易にクロースアップマジックを覚えた人たちが、近場のレストランなどで小銭稼ぎをするようになり、クロースアップの価値はガタガタに下がってはいませんか。

 なおかつこのコロナの影響です。コロナは少し増え過ぎたクロースアップの演者を、大きく減らす結果になるでしょう。無論技量のある人は何とかしのいで生き残るはずです。また、この機会に基礎から学び直す人も出ると思います。そうした状況下で、辞めて行く人、生き残った人が選別された後、私は、プロの世界に本当のプロのクロースアップマジシャンが出て来るのだと思います。

 今私は、「本当のクロースアップマジシャン」と申し上げましたが、私は、今までで、クロースアップを見て、他の芸能に匹敵するだけの楽しいショウを見たことがほとんどないのです。無論、不思議な人、うまい人はいます。しかし他の芸能に匹敵する優れた芸能芸術としてのクロースアップは未だ見ていないのです。

 それが見られるのは、コロナ騒ぎが去った後でしょうか。そのとき、衆寡は大勝するのでしょうか、いやいや、或いは、長く低迷していたステージマジックが息を吹き返し、クロースアップをしのぎ、再度、衆寡入れ替わるのかもしれません。何にしてもチャンスは少数にあります。自分自身が少数の中にいることは人生のチャンスなのです。

続く