手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

都知事選挙に仲間との食事

都知事選挙 

 昨日は朝に都知事選挙に出かけ、投票を済ませました。今回の都知事選挙は初めから期待の持てない選挙でした。顔ぶれを見ても、どなたも期待できません。そもそも政策が見えません。東京都をどうにかしてくれる人ではなく、自分がどうにかなりたい人ばかりが出ています。この中から都知事を選べと言われても、学級委員選挙ではないのですから、ちょっと顔の知られた人なんかを選べませんし、得体の知れない政党の党首などは危なくて選べません。

 じゃあだれを選べばいいかと言われて眺めても、残念ながら誰も該当者がいません。もっと、まじめで、真摯な人に出て来てほしいのです。二宮金次郎さんのような、堅実で、地味な活動を続けて来て、人の信頼を着実に集めてきたような、そんな人に都知事になってもらいたいのです。

、悩んだ末、結局、白票で投票するほかはありませんでした。私は白票を出すのは反対です。少しでも立候補者に気持ちを汲んで、より私の考えに近い人を投票したいと思っていました。しかし今回はだめです。ひどすぎます。

 世界に冠たる東京都の首長を選ぶのに、この選挙では先が知れています。あぁ、この先の4年間は悲嘆にくれる毎日でしょう。

 

手妻指導をみっちり

 午後から指導をいたしました。この数年セミプロ活動をしているK君です。会社勤めをしながら、舞台活動をしていますが、このところのコロナウイルスの影響で、その舞台も途切れがちです。しかしここで心機一転、基礎から習いなおせば、活路も開けるのではないかと考え尋ねてきたのです。

 K君のことは良く知っていましたが、私が別の人と勘違いをしていて、顔と名前が一致していなくてしばらく戸惑いました。実際にプロ活動をしてみて、なかなかうまく行かない点が出てきたのでしょう。コロナウイルスは、自分自身の気持ちを新たに、考えを改めるには大変に重要な転機だと思います。常日頃は彼らのような人たちは、私のようなカビの生えた芸人からマジックを習おうなどとは考えもしなかったでしょう。

 然し、よくよく見れば、コロナ騒ぎの中でも、私には舞台の依頼がありますし、支援者もいます。それもこれも私には芸能としての手妻の基礎があるから、簡単には沈まないのです。そのことが外から見ていて、だんだんわかって来て、私から習いたいと言う人が増えてきたのでしょう。このところそんな人が何人も尋ねて来るようになりました。

 そこで、昨日は、少しサービスをしました。通常、1時間のレッスンを3時間分しました。そして、基礎とは何か、マジックとは何がマジックなのか、みっちり話をしながら、手妻の手順を指導しました。これは基礎レッスンと言うよりも、プロ指導です。

 プロを育てるためにする教え方はかなり通常の指導とは違います。このレッスンを受けて、K君は、直接学ぶことの大切さがようやくわかったようです。

 

 さて、午後の指導を終えて、お茶を飲みながら話をしていると、夜から田代茂さんが尋ねて来る時間と重なってしまいました。田代さんは毎年この時期に私の家を訪ねて来て、届け物をしてくれます。そしてそのあと食事に行きます。晩は、中野の日本料理屋を予約しておきましたが、田代さんの好意でK君も一緒に行くことになりました。K君にとってはラッキーです。カンボジアからの留学生のワンさん、と田代さん、K君と私の4人で、タクシーで中野に向かいました。

 中野の味わい屋を予約しましたが、ここは10年以上前から贔屓にしていて、魚の旨い店です。この晩は、勘八、しめさば、カツオのたたき、クジラの刺身の4品を頼みました。勘八も、カツオも文句のない味でしたが、圧巻はクジラの刺身でしょう。身が柔らかく、牛肉のようです。すりおろしニンニクが添えられているのも気が利いています。

 図らずも先週、岐阜でクジラを食べて以来、度々クジラに遭遇しますが、今のところどれもあたりです。

 そのあとアユの塩焼きを頂きました。これも身が厚く、いい鮎でした。途中からKK君が合流しました。彼は十数年前、大学を出てプロを目指そうとしたのですが、私が大反対をしました。それでもプロになろうとしましたので、マジックのパーティーの楽屋で、私が数発顔を殴りました。

 東京大学の大学院まで出て、マジシャンになるなんて意味がないからやめろと言ったのです。それでもマジックの才能があるならそれもよいかもしれません。しかし私の見るところ彼のマジックの才能はゼロに等しいのです。プロになっても苦しむだけです。プロの世界の底辺でうろうろするよりも、東大の看板を生かして仕事を見つけていったほうがどれほど自分にとって有利かを考えろと言ったのです。

 無論、人前で面と向かって殴られたことなどなかったKK君には大ショックな出来事だったでしょう。然し私は、今でもあのときの自分の行為は間違っていなかったと思っています。昔なら親が子を殴って目を覚まさせます。しかし今の親は子を殴りません。子を殴らないことを愛情だと錯覚しています。それは間違いです。

 明らかに間違ったことを子供がしていたら、何としてもやめさせなければいけません。誰かが目を覚まさせなければ、彼は奈落の底に落ちていたと思います。芸能の己惚(うぬぼ)れは業(ごう)が深いのです。どんなに頭のいい人でも、一度欲に取り憑かれると、自分のことは見えないものです。

 さてその彼が、私と田代さんの飲み会に来ると言うのは、どういうことでしょうか。彼とは何年も話をしていません。彼はプロ活動はもうしていません。何か別の仕事をしているようです。それが私と話したいとは、ようやく目が覚めて、現実が見えるようになったのでしょうか。飲みながら、いろいろ聞いてみると、どうやらKK君は大人になったようです。結構なことです。

 この晩は、セミプロのK君と、昔プロになり損ねたKKくんと、田代さんが私に引き合わせ、私からいろいろ話を引き出そうとしたのでしょう。彼らにとっては良い機会だったと思います。人生にはいろいろなことがありますが、この晩は印象深い一晩でした。

終わり