手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

雨音

 昨晩はよく寝られ、今朝は6時に起きました。6時間以上寝たのは久しぶりです。目を覚ますと窓の外は雨でした。いつもは窓から強い日差しがさして来るのですが、今朝は朝日はありません。と言って暗くもなく、しとしと雨は降っていますが、家の中にいる限り、不快なことはありません。ただ、昨晩からの帯状疱疹は、頭に移動し、頭の上が時折りチクチクと痛みます。とてもまだ回復した状況ではありません。体を起こし、もう少し寝るか、起きるか、考えていると、頭のチクチク以外は問題なさそうですし、よく寝たため体力も回復していそうです。それなら起きてブログを書こうと思います。

 

中古道具の販売

 このところ、生徒さんや知人から、昔買ったマジックの道具や、DVDを処分したいので興味の人に販売してくれないかと頼まれます。私はあまり販売には手を染めたくないのですが、縁の深い人ならやむを得ないと、道具類を引き取ります。幸い、私のところに来る人や、知人に紹介すると、ある程度は売れます。私が作った装置とかビデオなら、希望者は多く、大概はすぐに捌けますが、私の知らない道具はなかなか売れません。それでも、前田が半値くらいの定価をつけて、ネットに出すと。ぽつぽつ売れています。

 然し、昨日、段ボールに入ったグッズの定価をしみじみ眺めてみると、DVDの定価が3000円程度のものがほとんどです。それを半値で売って1500円。送料などの手数料を差し引くと、1200円程度にしかなりません。知人は金が必要だから私に道具を送って来るのでしょうから、なるべく5万円とか10万円にして渡してあげたいと思うのですが、中古のマジックグッズの売り上げで10万円と言う金額は夢のまた夢のようです。

 

なぜ売れないか

 特にDVDの値落ちは悲劇的です。どんな一流のマジシャンでも、3000円、4000円のプライスです。英語圏のビデオなら、日本語の数倍売れるでしょうから、総体の売り上げは大きくなると思います。日本の作品が百巻売れたとして、30万円、そこから作者への謝礼が40%として12万円。英語のものなら、500巻売れるとして。合計150万円、

40%の謝礼なら60万円。いずれもよく売れた部類のマジシャンの収入です。

 正直私はため息をついてしまいます。自分の作品集をレクチュアーすると言うことは、これまでの数年間のマジックの蓄積を、作品にまとめて、公開するわけです。言ってみればマジシャンが今まで努力をし、才能を結集させた成果であるはずです。

 それがめでたく全部売れたとして、マジシャンに入る収入は12万円から、60万円です。あぁ、何と小さな商いでしょう。12万円では一か月の生活も維持できません。60万円貰ったとしても2か月たったら一銭も残らないでしょう。そのあとはまた何年もかけて作品を作り溜めをするのでしょうか。

 それを良しと考えて活動している人に私は意見がましいことは言いません。ただ、この程度の収入にしかならないマジックの社会ではこの先有能な人材は集まらないでしょう。自分の作品集を出すのなら、自分のこれまでの工夫や、知識、才能を金に変えても十分見合うだけの金額を手に入れなければ行く末が不安のはずです。本来マジシャンは種を公開するものではありません。しかしどうしても公開しなければならない状況に至ったのなら、大きく稼がなければ意味がありません。稼ぐこともできず、才能を切り売りしてだらだら売り食いしていては次の世代の若者が憧れないでしょう。

 まず指導ビデオのクリエーターは、1000万円稼げる道を考えてください。実利で1000万円稼いだなら、周囲の若手マジシャンはクリエーターを追いかけるでしょう。実際私は、20代から30代に指導ビデオで2千万円稼ぎあげました。こう書くと、「まさか藤山が」、と信用しないかもしれません。あるいは、少し訳知りの人なら、「あいつは商売がうまいからなぁ。どうせまた、自慢話が鼻につく」。と思っているでしょう。然し、嘘ではありませんし、データーもあります。そして、どうやったら稼ぎを上げるのか、その方法もお話ししましょう。まずはお聞きください。

 

かつてビデオは流行の先端にあった

 昭和60年代に私はしきりに指導ビデオを出していました。当時アイビデオと言うマジック専門のビデオ屋さんがあって、そこからたくさんの指導ビデオが出ていました。私もその依頼を受けてビデオを出しました。第一号が12本リングでした。これはさほど売れませんでした。百巻までには届かなかったと思います。手順が難しいことと、12本のリングの入手が難しいこと、素人には広くは受け入れられなかったのです。

 そこで、アイビデオのオーナー白沢さんに尋ねました。「アマチュアはどんな指導ビデオを求めていますか」。「ごく簡単なものがいいみたいです。シルクとか、ロープとか、お金やお札を使ったものなんかがうけるみたいです」。「そうしたビデオはあるんですか」。「それがないんです。いくつか指導する作品の中に一つくらい、シルクや、ロープが入ったものならあるんですが、ロープだけでひとまとめになったような百科事典のような、ビデオが欲しいみたいですよ」。これはいいヒントでした。

 そこで、私が出したビデオは「シルク20」でした。通常のビデオは作品を5つくらい取り上げて、解説しますが、私はいきなり20作品を載せました。全部シルクマジックです。そしてかなり丁寧に指導をしました。これが大当たりをしました。3年間で1000巻売れました。国内のビデオで1000巻は記録です。これまで高木重朗先生のカードマジック全集がよく売れた作品だったのですが、それでも各100巻でした。一桁上がったわけです。シルク20は今も売れ続けています。通算2000巻は売れています。

 当時の私のビデオは一巻9800円です。千巻売れたなら、980万円です。その50%が私の利益ですから、約500万円の収入になりました。シルク20はすぐさま続編が出ました。これもよく売れました。シルク20の1を買った人は必ず2を買います。

 これに気を良くしたアイビデオは、ロープ20を出します。これも大ヒットです。ロープはその後、2,3と三種類出しました。シルクとロープを合わせてトータル2000巻達成しました。合計1000万円の収入です。

 このころは、マジックのビデオはなかなか売れず、有名な指導家でも、月に2巻3巻でしたから、二か月に一回白沢さんがダビングしたビデオを指導家の家に持参して、ビデオの裏に検印を押してもらっていました。判子を一つ押すと、一割支払ってくれます。しかし私の場合は、あまりに売れるので、毎月シルク20を10巻20巻持ってきます。他にもロープ20や、シンブルや6本リングなど、あらゆるビデオを持ってきます。そんなに一度に持って来られると、印を押す時間がありません。

 そこで白沢さんと話し合って、何百巻売れても私は関与しない。一巻50万円でアイビデオが権利を買い取る。という話し合いになりました。これによって、私は、年間に二巻新しいビデオを出せば、年額百万円、アイビデオから支払われることになりました。

 無論、私の仕事は舞台ですから、ビデオの収入は余禄です。でもこの収入は事務所の経費や人件費でずいぶん助かりました。

 

 ここで私の言いたいことは、金儲けの自慢ではありません。買い手が何を求めているかを知ることが大切だと言いたいのです。私のビデオはどれも昔からある基本ネタが半分です。目新しいものではないのです。然し、お客様はそれを覚えたいのです。

 ビデオを出す人の中には、自分の作品を世間に訴えたいと考えて出す人が多いようですが、結果として、30巻や50巻売れて、それで、自分の知名度が上がりますか。売り上げで大きな収入が得られますか。どちらも得られないなら、その仕事の仕方そのものが間違っています。自分の活動は、プロで生きて行くなら、しっかり収益を上げたかどうか見極めなくてはいけません。売れないものを並べて生きていても、活動が認められていることにはなりません。だめはいくら繰り返してもダメです。だめのスポイラルから脱却しない限り成功は来ないのです。

 

次回に続く