手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

非常事態 非常宣言

 結局この国にリーダーはいるのでしょうか。火付け役はいても火消し役がいない、いや、問題を大きくする人はいても、問題解決を提示できる人がいません。安倍首相はイベントを自粛せよと言いました。理由は人を集めるからだそうです。人の集まらないイベントならイベントの意味はありません。人を集めるなと言うのは、イベントを100%否定した言葉です。人が集まることがいけないならなぜ山手線を真っ先に休止にしませんか。まず公共機関が範を示して、感染を防ぐべきでしょう。その上で民間に呼びかけるべきではありませんか。

 「イベントを自粛せよ」と言われて、イベントに生きる人たちはどうして生きて行ったらいいのですか。あれをするなこれをするなと言う前に、まず人の生きるすべを示してから、中止を求めるべきではありませんか。言葉ばかりが勢い良くて、そこに責任がなければ、結果、多くの人を不幸に陥れるばかりではありませんか。

 小池都知事は一層問題です。一昨日は、「夜の外出を控えて、食事もアルコールも外での遊びは控えるべき」。とはどうして言えますか。江戸時代ではあるまいし、個人個人の行動にまで口出しする政府がどこにありますか。テレビは、夜に飲食店で飲んでいる人にインタビューしていました。「なぜ、こんな時期に酒を飲んでいるのですか」。大きなお世話です。テレビ局の言うことではありません。太平洋戦争のさなか、アメリカと日本が戦争している時でさえ、空いている酒場を探して酒を飲んでいる人はいたのです。私の父親です。飲みたい人に、なぜかと問うのは野暮です。飲みたいのです。個人の生活のはしはしまで追い詰める行為は密告社会です。それをする人は卑劣です。コロナウイルスという大義名分を背負って、テレビ局は正義の代表者のような顔をして、弱者をいじめているのです。

 

 特定の業種を指して、そこに行くな、と言えば、その業界はその日から死活問題になります。ホテルもレストランも、割烹料理店も、クラブも、スナックも、一杯飲み屋も、どこも他に転業の聞かない仕事です。そういうところに行くなと言われて、銀座や赤坂のママはどうやって生きて行きますか。友禅の着物を着て、綿あめや、ヒヨコを売ることはできません。大きくならないウサギと言って、本当は大きくなるウサギを売っても銀座の店の家賃は払いきれません。転業などできないのです。

 やむなく少ないながらも支持してくれるお客様を相手に何とかやっているのです。みんな一縷の思いで生活しています。それを店に行くなと言うことは、働く人のわずかな望みも切り離してしまうことなのです。そんなことをどういう理由で知事が言えるのですか、それを言っている小池知事の記者会見は人を集めてはいませんか。そこで何人かが感染したなら、その責任は誰がとりますか。

 小池都知事も、安倍首相も、非常事態宣言の捉え方を間違えています。まず、非常事態を語るなら、自らが身を正さなければいけません。つまり、国民や都民に無収入の覚悟を求めるなら、まず自らが、給料を返上することが第一、そして、次に、国会議員、都議会議員の給料もカット。公務員の給料も、コロナウイルスが終息するまで、10%なり20%なり給料カット、ボーナスもカットを宣言した上で、「イベント自粛や、レストラン、クラブに出歩くな」。と言わなければ、誰が素直に従いますか。

 無論、そんなことを宣言すれば、公務員から大きな反発が来るでしょう。しかし、 役人の給料は変えず、山手線は止めず、クラブのママや、弱小のライブハウスを名指しで攻め立てたり、格闘技のイベント開催を県知事が止めに入ったり、一体何をしているのですか。そんなことをしていたら弱者をいじめるばかりです。それで本当にコロナウイルスは終息すると考えているのですか。

 このままでは仮にコロナウイルスが収まったとしても、日本の景気が落ち込んでしまいます。自殺者多数になるかもしれません。コロナウイルスの死者以上に自殺者が出たなら、それでコロナウイルスの終息宣言と言えますか。

 そんな状況になれば公務員と言えどもこのまま給料が出続けるということはあり得ないのです。本当に非常事態を宣言するのであれば、自ら給料を返納して、その上で、「みんなで耐えて行きましょう」。と言わなければ、誰が非常事態に対して協力をしようと考えますか。

 今の日本の政治家の言葉は少しも人の心に共鳴を呼びません.自分が怪我をしないところにいて、まるでスポーツの観戦をしているような気持で騒いでいるようにしか聞こえません。そんな姿勢で、何が非常事態宣言ですか。国民が、都民がどう生きて行くかの処方箋をなぜ伝えようとしないのですか。

 

 テレビは毎日、誰が感染した、何人なくなったと伝えますが、ウイルスであるからには、人は感染し、亡くなる人も出ます。しかし、他の病気、肺炎や、インフルエンザと比較したときに、どれだけの被害があるかと考えたなら、コロナウイルスは微々たるものです。まず第一にそのことを伝えるべきで、それから感染対策を語るべきです。

 

 先日ジャパンカップのパーティーで、私とメイガスさんとヒロサカイさんが横並びで並んで食事をしました。二人とも浮かない顔をしています。メイガスさんはもう30本以上仕事が飛んだそうです。まったく先々の当てがないそうです。サカイさんも同じです。私も同じです。まさかこの三人が揃いも揃って仕事がないという話をするとは思いませんでした。全くマジシャンの魔法は無力です。日本に限らず、世界中のマジシャンは今、「どうやって生きて行こう」。と自問自答しているはずです。

 私もそうした人たちに、何とか生きて行くすべを伝えたい、助けたいと思いますが、いかんせん私自身が、この先手妻師でいられるかどうかもわかりません。来月再来月は売り食いしてでも生きては行けますが、来年のことは全く分かりません。

 今の私は、何をすべきか。私の結論は、何とか若い人に、私の知っている知識を伝えて、マジックや手妻を残して行こうと考えています。私に何かあっても、たくさん人を残せば、何とか手妻もマジックも残って行くでしょう。そのために、この先の半年一年は指導に力を注いで行こうと考えています。私のできることは小さなことですが、将来に手妻、マジックが花咲くためには、今は種を残す以外解決の道はありません。それを私の使命と、生きて行くことに決めました。