手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

築地新喜楽

 先日、築地新喜楽でのお座敷に出演した、と申し上げました。新喜楽は、規模と言い、格と言い、日本のお座敷の中ではトップに位置するお座敷です。毎年、直木賞芥川賞の選考会をここで開催し、何人かの選考委員が座敷で長い時間協議し、優れた作品を選んで、発表しています。

 外見を見ても、元の築地市場の真向かいで、どっしりとした日本建築の瓦屋根。押し出しの良さは誰もが圧倒されます。私はここに30年前に一度呼ばれました。私でも今回で二度目です。30年前は三越デパートの経営者さんと、広告代理店の経営者さんの新年会で、70畳もある座敷に、12人のお客様で、同じ数の芸者さんが座っていました。

 この時、私は、前田知洋さんを紹介してあげようと、彼を連れて行きました。このときは前田さんはまだ人に知られてはおらず、ましてや大きな座敷に呼ばれるなどと言うことはありませんでした。そもそもクロースアップと言う物自体見慣れない時代でしたから、前田さんを紹介したら、きっと皆さん喜ぶだろうと思いました。

 実際お客様の評判がよく、おそらくその後、いくつかの仕事を頼まれたのではないかと思います。この時は正月の座敷で、芸者衆が何人も着飾って、お引き刷りの着物を着て、広い廊下を行きかう姿は、まるで江戸城の大奥のようで、さすが、東京の一流座敷だなぁ。と、感心して見ていた思い出があります。

 

 さて、それから30年。今回も新年会です。今回は、日本中の新聞社の経営者が集まっての新年会です。どこも地元の一流紙で、日頃はお会いすることのない方々です。どうやら、お客様の希望で、江戸の手妻を見てみたいと言うことなのだそうで、私が呼ばれました。今回は芸者衆はいません。食事と手妻を見る会だそうです。何とも真面目なパーティーです。

 そこで、いつもの、引き出しやら、サムタイ、おわんと玉を演じ、おしまいに蝶を飛ばしました。蝶は少し時間を取って、客席まで行き、一人一人の頭の上をゆったりと飛ばしました。予想以上にお客様に喜ばれ、主催者の方々が入れ替わり楽屋を訪れ、感謝されました。名だたる新聞社の社長さんに丁寧に挨拶され、こちらこそありがたいと思いました。

 

 この10年、座敷遊びは斜陽で、毎年何件かお座敷が廃業しています。私が若いころから出ていた座敷のほとんどが今は無くなっています。素晴らしく贅沢な日本建築の座敷がなくなり、後に、カラオケ屋さんや、ディスカウントショップができています。元を知るものとしては何とも寂しい思いがします。

 何とか新喜楽さんもこの先ずっと続けていただきたいと思います。手伝いでついてきた前田も、新規楽さんの贅沢なつくりを見て感動していました。確かに、前田が一人前になるころに、いったい幾つの座敷が残っているか、予測もできません。ただ、若いころ師匠の手伝いで、新規楽の大座敷に出た、などと言うことは、昔語りの一つになるかもしれません。その時、令和と言う時代は、まだゆったりとして、上品な時代だった、という思い出が残るでしょう。

 それを身をもって示せたと言うことは、私の生きてきたあかしを伝えるうえで重要なことなのだと思います。

 およそマジシャンで、座敷の仕事のできる人は限られています。ひょっとすると私が座敷に出たマジシャンの最後の人になるのかもしれません。

 それでも久々に気分の良い仕事でした。

 

 その座敷の仕事をなくさないために、私は、4月から毎月一回、第3土曜日に、昼から人形町玉ひでで、お座敷手妻をいたします。30人限定で、親子丼のセットを食べていただいて、そのあと、じっくり手妻を見ると言う会です。ご存じのように、玉ひでさんは親子丼の元祖のお店で、本来は。軍鶏(しゃも)鍋屋さんです。親子丼は昼だけしか出しておりません。その昼の親子丼を目当てに人が集まるのですが、1時間待ちはざらの状態です。そこで、私の手妻をご覧になりたい方のみ、待たずに、座敷に入れて、じっくり時間をかけて親子丼のセットと手妻を楽しめます。

 

 初日は、4月18日です。午前中は、マジック教室をいたします。講習料は1000円です。基本的なマジックですが、きっとお役に立つと思います。12時から食事をいたします。お申し込みは東京イリュージョンまで、お早めにどうぞ。ショウとお食事で5500円です。