手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

菊正の樽

 昨日は名古屋の指導でした。今回から片山幸宏さんが加わりました。手妻をレパートリーにしたいそうです。彼は京都の仕事が多いようです。そのおりしばしば「和服の演技はないか」。と、聞かれるそうです。潜在的に京都は和物の需要が多いと判断して、それならば、これからみっちり手妻を学んで、15分、20分と手妻の手順を作り上げれば、活動の中で大きな収入源になると判断したようです。

 実際私が見ても、関西での手妻の需要は大きいように思います。しかし、実際きっちり手妻のできるマジシャンがほとんどいません。古典と言うのは、型や作品や、その身のこなし方、日々の生き方までを継承された日本文化を総称して、古典と呼びます。

 ただ着物を着て、傘を出したり、センスを出すのは、創作マジックです。無論それで仕事が得られるならそれで結構なのです。しかし、きっちりとした仕事先に出ると、身のこなしや、日常の日本文化のルールを知らずに、マジックだけをしていると大きなミスを犯します。和の文化の中で、いい仕事をつかもうとするなら、いっぺん自身をリセットして、一から和の文化を学ばなければうまくありません。こうしたことは一朝一夕にはできませんが、じっくり学んでゆけば一生の宝物になってゆきます。

 

 さて、指導を終えて、私、峯村らさん、それに片山さんの三人は、名古屋駅の13Fにある藪そばに入りました。ここの藪は神田の藪の支店のようです。常温の酒は菊正宗の樽酒があります。菊正宗は名の知れた酒ですが、樽はなかなか飲めません。浅草の並木の藪は、枡で飲みます。枡の縁に少し塩を盛り、塩をなめながら酒を口に含みます。菊正宗と言うのは少し甘めの酒ですから、塩と合わせると実にしまった味になります。これがいいのです。二百年変わらない江戸っ子の飲み方です。

 しかしここは神田の藪の支店ですから、枡の中にグラスが乗っていて、酒を並々と注ぎます。これもいいです。グラスで飲んでも、枡で飲んでも面白いです。三人はまず乾杯をして、それから蕎麦種を注文して、種を肴に一杯やります。これが江戸っ子の酒の飲み方です。 

 お客様の少なくなった3時4時ころ、地元の通が店に入って来て、板わさ(かまぼこ)や、卵焼きなどを頼んで、枡酒を仲間とちびちびやるのですが、一合か、二合の酒を飲んで、仲間と談笑をし、仕上げにせいろ(盛り蕎麦)を一枚食べて、あまり酔っぱらわないうちにさっと帰って行く。これが江戸の酒のみの飲み方です。浅草や神田などで、こうした姿を見ると、東京に生まれてよかったなぁ、と思います。

 先月名古屋で藪を見つけたので、それを名古屋で実践しようと再度訪れたわけです。

そこへ今回は片山さんが同席しました。我々の大人の遊びに加わるのは少し早いかなと思いましたが、このところ、上海の大会でチャンピオンになったりして、活躍していますので、ご褒美がてら仲間に加えました。

 話は当然、マジックのことですが、日頃の話とは違い、あけすけなく人の名前が出てきますので、ここではお話しできません。ばかばかしい話もたくさん出てきます。いろいろ面白い話が出ました。つまみに、てんぷら、焼き鳥など頼みました。味は、まぁまぁ、仕上げにせいろを頼みました。つゆは濃い目で、少し甘め、伝統的な神田のつゆです。そばは青みがかった細めのそば、これも神田の通り、これが名古屋で食べられるなら結構です。二時間、蕎麦屋で楽しんで、私は大阪に向かいました。こんな時間があることは幸せです。

 

ところで、峯村氏と話をしたり、先日の東さんのパーティーに同席している人たちと話をするうちに、世界のマジックの事情が見えてきます。まったく私見ですが、来年のマジック界はどんな状況になるか、私の予測をお話ししましょう。

 

 日本は、コンベンションに関しては軒並み頭打ちではないかと思います。1,2か所の大会は開催できなくなる可能性もあります。コンベンションを、デパートのように、何でもそろっている場所、ととらえていてはこの際は運営も難しいかと思います。

 プロの活動に関しては、オリンピックや、大阪万博の勢いで、仕事の量は増してゆくかと思います。それでも、仕事を手に入れて、成功するマジシャンと、仕事にありつけないマジシャンの二極化が今以上に顕著になってゆくでしょう。

 

 韓国は、国が不安定な状況になってきています。この先、いろいろな面で問題が生じると思います。コンベンションの開催も、この先どうなるかわかりません。これまでずっと上り調子で来た韓国奇術界ですが、来年の韓国は正念場を迎えることになるのではないかと思います。

 同様に、プロが活動してゆくには難しい状況になるように思えます。これまで色々出てきた韓国のマジシャンが、来年はかなり淘汰されるのではないでしょうか。

 

 アジア全体は、景気でいうなら、日本台湾は好景気、それにつれてマジック活動も順調に伸びると思います。中国、香港は混迷の時期かと思います。香港は特にお気の毒な状況です。

 

 アメリカは経済状態は悪くないはずですが、かつてのように、SAM、IBMに、1000人単位で人が集まる状況ではなくなっています。ひところのアメリカ人のマジックに対する情熱はどこへ行ってしまったのでしょうか。コンテストも、アメリカからの新星が現れません。さみしい限りです。潜在的にマジック愛好家は多く、投資を考えている人も日本よりは数多くいるようですので、何か突破口が開けたなら、またアメリカマジック界も活発になるかと思います。

 プロマジシャンもこの数年スターが不在です。ロサンゼルスのマジックキャッスルのみ、気を吐いています。出演申込者は多く、観客もよく集まっています。

 

 ヨーロッパはドイツ、スペインが人材も多く、マジックに投資してくれる人も数多くいて、活況を呈しています。特にドイツではマジックの専門劇場が5つ以上出来て、それぞれ毎晩公演しています(東さんの談)。それに合わせて、プロも数多く出て来ているようです。ヨーロッパは長い低迷から脱却して、かつてのようなマジックのスターが出て来る可能性があります。少なくとも、日本や、アメリカ、韓国などと比べると、ヨーロッパの可能性はより高いように思えます。

 

 と、そんなことを書いているうちに、今年もあと1日になってしまいました。明日もブログが書けるといいと思います。

 

 2月29日、3月1日の九州奇術連合会に参加されませんか。面白いコンベンションです。一度行くと病みつきになります。福岡空港から一緒に専用のバスで、一緒にホテルまで行きましょう。詳細は九奇連のネットをご参照ください。