手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

たけちゃん金返せ4

 たけちゃんの面白さは密室の会話にあります。元々人前に出て、みんなを笑わせるような人ではありません。舞台に立つのは生きて行くためにやむを得ずしていることで、本来は数人が集まる中でばかばかしいことを言うとめちゃくちゃ面白い人なのです。

 昔、中学校で、授業中に隣の仲間にくだらないことを言っては笑わせる人がいましたが、まさにたけちゃんはそれです。声を出してはいけない、笑ってはいけない場所で、くだらないことを言うのが実に面白いのです。

 たけちゃんは後に有名になってから、オールナイトニッポンにレギュラーで出るようになりましたが、あの時、高田文夫さんと深夜にこそこそ話すトークこそ、たけちゃんの面白さを最大に引き出す企画でした。

 今思えば、私は頻繁に二人で酒を飲みに行き、たけちゃんを独占して、飲みながら、密室の会話が聞けたのですから、最高の幸せでした。たけちゃんのギャグの傑作を二本お伝えしましょう。

 うんこ地獄

 悪いことをして地獄に送られると、そこに鬼がいて、「今日は特別にお前たちに責められる場所を選ばせてやる」。と言って、針の山や、火あぶりや、熱湯地獄を見せられます。どれも残酷で痛々しいため拒否します。しかし、うんこ地獄と言うのがあって、そこはうんこの沼に亡者が入って、みんなで顔を出しています。「あぁ、これなら我慢できる」。と、早速うんこ地獄を申し込んで、沼に入って顔を出していると、係員の鬼がやってきて。「はい、休憩終わり。全員潜れ」。

 精神病院

  精神病院の医院長が「うちの患者もだいぶ良くなったようだから、試験をして、よかったものは退院させよう」。と言うことになって、一人ずつ患者を呼んで、「私の指さしたところの名称を言いなさい」。先生が鼻を指さすと、患者が、「目です」。「だめだなこれは、次の患者」。次々と試験して行って、全員見終わってから、一名だけが退院できることになりました。すると仲間の患者がうらやましがって、「すごいなぁ、あんな難しい問題よくわかったなぁ」。と言うと、退院する患者が、「そりゃぁお前たちとはここの出来が違うもん」。と言って指で自分のお尻をさしました。

 

 たけちゃんはネタを考えると、楽屋でも、夜飲んでいても工夫をします。未完成なネタですから、受けが弱いときには、話をしながらも、あれこれ弄り回して、面白くしようとします。それでもまとまらないと、家に持ち帰って、奥さんのミキちゃんと夜中に話をしながら組み立てます。

 このミキちゃんと言う人は、元、ミキ、ミチと言う女性コンビの漫才で。ある時期はツービートよりも売れていたのです。しかしたけちゃんと結婚したときに、「家庭の中に漫才が二組いたんじゃ食えない」。と言って、自分は漫才をやめて亀有でホステスになります。つまりミキちゃんはたけちゃんを支える役に回ったわけです。

 ミキちゃんもまた、ネタを考える天才で、ある点たけちゃんより鋭い発想をします。私は前からたけちゃんはミキちゃんとコンビを組んだほうが売れるんじゃないかと思っていました。たけちゃんはどちらかと言うと気の弱い人ですから、気の強いミキちゃんに押されまくって、言いたいことも言えないような漫才だったらもっと面白いと思ったのです。実際たけちゃんもミキちゃんとコンビを組みたかったようです。

 私が「どうしてミキちゃんとコンビを組まないの」。と聞くと、「うん、組みたいんだけど、相棒の兼子がなぁ」。と言います。兼子とはきよしさんの本名で、きよしさんはたけちゃんの才能を100%信頼し切っています。そして安い仕事でも探してきます。今ツービートがあるのもきよしさんが仕事を作って来るから生きていられるのです。そうまでたけちゃんを信頼しているきよしさんをたけちゃんは切れないのです。

 結果から見ればすべてはオーライだったのですが、たけちゃんの成功までにはいくつものツービートのスタイルを選択する余地があったのです。

 私は、たけちゃんが几帳面にネタを書くのはすごいと思います。そして、そこから生まれた作品は常識を超えて驚きのものがたくさんあります。そこは無条件に尊敬をします。ただ、映画の才能や、役者の才能、その他のことには私には全く興味がありません。褒める人はたくさんいます。でも、私の興味はあくまで飲み屋でひたすらネタをいじっていた姿であり、奥さんとの雑談から面白いネタを作って行く姿にこそ最もたけちゃんらしさを感じます。そうした姿に毎日接することができたのを幸せの思います。

 

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 藤山新太郎芸談はnoteに出ています。どうぞご覧ください。