手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

別に体は悪くありません

 昨日は糖尿病の検査でした。数値はむしろ改善されていました。私は糖尿の数値を守っていれば、どこにも問題はありません。今まで、けがも入院もなかったのです。その糖尿も、アルコールと、穀類を控えるようになってからは良くなっています。それでもときどき甘いもの、おいしい食事、アルコールを取ります。これがいけないのです。でもやめられません。

 私の主治医は石橋健一先生と言って、三軒茶屋で糖尿病の医院を開設されています。もう13年くらい通っています。石橋先生は子供のころからのマジックの愛好家で、中学生の頃は、五反田にあった、マリックショップによく出かけていたそうです。マリックショップは、ミスターマリックさんが経営していた店で、よく店番にマーカテンドーさんがいたそうです。今は、コンベンションや、六本木のオズマンドなどにも頻繁に出かけてゆきます。無論私の会にも来てくれます。

 今日は、CTスキャンを撮るために中野の病院に行きました。3年に一度くらい定期的に撮っています。12時から1時間、病院のパジャマを着て、CTスキャンを撮ります。未来世界を思わせる。大きな筒状の装置の中に寝転んでいると、装置が徐々に動き出して、体中を、ハムのスライスのように輪切りにした写真を撮って行きます。面白い仕掛けです。相当に高価な道具だと思います。ただしあまりに即物的です。

 静かに寝ていればいいと言うものではなく、機械はかなり大きく激しく動きます。しかも、ガタガタ、ピーピーうるさいのです。時々、装置全体大きく揺れます。どうせ揺れるのなら、アミューズメントパークの乗り物のように、画像と連動させて、宇宙戦隊ものでもやりながら揺れたなら結構楽しめるのではないかと思いますが、

 診療をしながら、宇宙の悪を倒していったなら、体の不具合は見つかるし、世界の平和は訪れるし、一挙両得ではありませんか。しかし病院はそんなことは考えないのでしょう。個室の中、私一人が横たわり、機械だけが大きな音を立てて動いています。約1時間、病院にいました。

 

帰り道、中央線沿いの道を歩いていると、焼き鳥専門店の昼定食がうまそうでしたので入ってみました。

 大ぶりの焼き鳥を2櫛焼いて、櫛から外し、卵やそぼろの乗った飯の上に焼き鳥を目いっぱい並べてあります。これを熱いうちに食べます。鶏肉はジューシーですし、皮は少しカリッとするまで炙ってあって香ばしく仕上がっています。思った以上の味わいです。キャベツと、味噌汁がついて780円。味もボリュームも十分満足です。全部食べたいところですが、飯を三分の一残しました。数値維持のためです。

 食事を済ませて急ぎ戻ると、2時10分前です。これから生徒の小島さんが習いに来ます。1時間の指導をすますと、駅に買い物に出ました。何のかんのと雑用をして今日の一日は終わります。

 

 前田は今日は、浅草や合羽橋方面に注文してあるマジック素材を取りに出かけています。前田にすれば、私が取引をしている、漆塗りの職人や、指物師(木工で精緻な小道具を作る職人)、銀細工師、テーブルや、大きな道具を作る木工所など、あらゆる職人の仕事場を知ることは、この先、自分のマジックを考える上でとても役に立つはずです。私は自分で道具を作ることはあまりしません。多少の加工は自宅のアトリエでしても、ほとんどは職人にお願いします。そのほうがいい道具ができるからです。

 やはり本職の道具の仕上がりには味わいがあります。私のアイディアの加わった道具と言うのは、当然、昔からあるものではありません。つい一か月前までは存在しなかったのです。しかし、頭の中で考えていた世界が形になると、凝った作りの道具のおかげで、演技自体が何百年も前から存在していた世界のように見えてきます。芸事は突き詰めたなら虚構ですが、その虚構が、職人の手によって妙に歴史の重みを感じさせます。

 ここが舞台の面白さです。ありもしない世界を大真面目に語って行くと、それが次第に真実に見えてきます。思えば、この一瞬、一瞬を表現したいがために何十年も手妻を続けてきたわけです。20代で考えたこと、30代で考えたこと、その頃は考えを形にするすべがなかったのです。資金がない、作ってくれる職人を知らない。私はないものだらけの中でもがいていたのです。それが徐々に形になってゆくと、本当に自分がしたかった世界が見えてきます。今の演技の中にはそれらすべてが詰まっています。

 今日は、集まった小道具をまとめる作業をして、午後に日本舞踊に出かけます。

 

 noteに芸談を書きました。[ネットマジシャンはすごい」と言うタイトルです。ご興味の方がありましたら後覧ください。