手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

天一祭

 来月11月10に福井市天一祭が開催されます。この祭りは、私が9年前に「天一一代」と言う本を出版するために、天一先生の故郷である福井市に何度か訪れ、町に残る天一先生の資料、旧跡を調べた時に、市長、県知事に会い、「天一先生ほどの偉人が福井市から出たことをもっと、世間に宣伝して、観光に結びつけない手はない」と、一席ぶって、毎年マジックショウを開催してきたものです。

 当初は、私の勢いに圧倒されて、市も、県も予算を出したのですが、だんだん補助金は小さくなり、今では約百人の観客を集めてショウをするのがやっとのことです。

それでも北陸でマジックショウが定期開催されると言うのは珍しく、毎年手堅く参加者が集まっています。地元の新聞社も宣伝してくださり、小さいながらも福井市にマジックが定着しています。

 

 天一先生は、1853年、福井の侍の家に生まれたのですが、家で不始末があり、取り潰しになります。家族とともに、福井を追われ、親せきを頼って、四国徳島の鳴門海峡にある寺に預けられます。8歳の時です。勉強は好きだったようですが、寺の修行はあまり興味がなく、15歳で寺を飛び出して、それからは芸人仲間と四国を旅してまわります。ちょうど明治維新の頃です。

 このままではどうしようもない旅回り芸人に終わってしまいますが、ある時、米国人のジョネスと言う、セミプロマジシャンに雇われ、アシスタントをする傍ら、西洋奇術を覚えます。そこからチャンスをつかみ、西洋奇術の一座を起こし、明治13年以降、西洋奇術師として売り出してゆきます

 たんなるマジック好きの少年が、苦難の末に日本一のマジシャンとなり、しかも、3年半に及ぶアメリカ欧州の興行をして成功を収める。明治時代の芸能人の中でも一代の大物ですが、この人物が、あふれるような才能を生かし、多くのチャンスにも恵まれ、しかもインチキ臭さを多分に持っていて、世の中を渡ってゆきます。私にすればこんな面白い人生を歩んだマジシャンを他に知りません。愛して愛してやまない人物です。

 天一先生の功績をなんとか埋もれさせないように、毎年天一祭を催し、看板のゲストには天一賞を出して、楯を渡しています。これまでの受賞者は、クリストファーハート、前田知洋ムッシュピエール、等々、今年がドクターレオンさんです。

 これを運営しているのが、福井でマジックバーをしている岡田さんで、お店は「そら」と言います。それに地元のマジシャンサイキックKさんです。ともに地元の有名人です。

 

 今年の天一祭は、もうチケットは完売しました。でも、追加チケットをわずかですが作ったようです。参加ご希望であれば実行委員会にお早く申し込んでください。何事も地味な町の、地味な活動ではありますが、ようやく安定してきたように思います。

 さて、福井の町を散策しても天一先生の資料はほとんど残されていません。残念なことに福井は空襲や、福井大地震があって、古い町並みはほとんどなくなってしまいました。天一先生の資料もごくわずかです。県の博物館か、福井こども歴史資料館には、かなりの資料が展示されています。そこで我々は、福井の中心街、大名町の交差点、福井銀行のところに松旭斎天一先生の碑を日本奇術協会が中心となって作りました。

 小さな碑ですが、日本の奇術師の中で唯一石碑となった奇術師の記念です。ぜひ一度お尋ねください。ただし、あまり小さいのでがっかりしないでください。

 

 

 一つ福井について宣伝をしましょう。私は食べることに関して少しうるさいのですが、福井と言う土地は食の素材に恵まれていて、日本でも有数の食材を持つ県です。

まず海産物が有名で、越前ガニはこれから食べ頃です。身が太く、しゃぶしゃぶなどにすると、身に甘みがあり、プリプリした白い身は歯ごたえもあって文句なく日本一の味です。それからブリ、寒ブリの脂の乗り具合は、まぐろの大トロとは違い、上品な脂身で、いくら食べても飽きが来ないうまみを備えています。照り焼き、塩焼きいずれも最高です。ブリ大根の甘みも捨てがたいものがあります。

 のどぐろはこのところ値段が高くなる一方ですが、塩焼きにして食べると、細かな油の味が上品で、塩焼き魚の王様です。サバは北陸の名物です。味噌煮も塩焼きもうまいですが、地元へ来たなら刺身と塩焼きで一杯と行きたいところです。

 忘れてならないのは米です。コシヒカリと言うコメを新潟のものと考えている人が多いのですが、コシヒカリの発祥は福井です。従って、越と言うのは越前のことを言います。越前(福井県)の光、すなわちコシヒカリです。

 定食屋さんで出される普通のごはんすら甘みがあって、焼きのりや、へしこ(サバ簿塩漬けですが、とても塩辛い酒のつまみです)をひとかけほおばって、口中で飯と合わせると、「どんな贅沢をするよりも、これでいい、これが最高の食事だ」。と、日本人に生まれた喜びを実感します。本当に福井の米は病みつきになる味です。

 また豚や牛肉も値段も安く、内容も素晴らしいものです。更にいいのは蕎麦です。大根おろしと一緒に食べる蕎麦が絶品で、福井では、頼まなくても、そばと言うと大根おろしを添えたざるそばが出てきます。他にソースカツどん(これは料理番組で度々取り上げられて有名になりましたが、通常のカツのよりも、ひと昔前の作り方、すなわちカツレツのルーツを思わせる、さっぱりしたとんかつです)、厚揚げのような油揚げも忘れられません(これに醤油を付けながら、酒を飲むと、酒の邪魔をせず、最高のつまみになります、決して通常の油揚げとは違います)。

酒は、梵と言う、この10年で知名度を上げている酒があります。米以外に混ぜ物を入れず、きりっとしまった味わいです。フランス政府が晩餐会のために毎年樽買いをすると言う酒で、なかなか入手できません。

 ここまで書くと、皆さんは、なぜそこまで私が福井の食をほめるか、不思議に思われるでしょう。福井で出て来る食材は、金沢でも、富山でも食べることはできます。しかし福井で食べるとかなり価格が安いのです。金沢はあまりに観光地化されて、価格が高騰してしまっています。同じ費用をかけて食事を楽しむなら、福井で食事をすることのほうが何割ほどかいいものを、たくさん食べられるのです。午前中注は金沢を観光して、夕方には福井に入って、食事をし、福井にとまると言う選択は賢いと思います。よく朝は早めに、足を延ばして永平寺にって見るといいでしょう。まったく現代とは思えない古風な世界がそこにあります。ひんやりとした永平寺の空気を吸うと、何とも心が落ち着きます。

どうぞ、一度福井に出かけて見てください。

 

 きょうはUGMで指導をします。名古屋で手妻の指導と言うのはほかではありません。この機会に手妻をしっかり覚えたなら、きっと一生ものの、大きな財産を手に入れることになるでしょう。ぜひ参加してみてはいかがでしょう。