手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

そもそもプロというものは

 今から20年も前のことですので、ご存じない方も多いかと思います。私は、ザマジックと言う季刊誌(年4回発行)に「そもそもプロマジシャンというものは」と言う、エッセイとも、指南書ともつかないものを書いていました。

 なぜ、そんなものを書こうと思ったのかと言うと、前年の1998年に文化庁から芸術祭大賞をもらいました。それ以前にも二回、芸術祭賞はいただいていましたが、大賞が来たことで一応頂点に至ったと諒解して、以後は、私を育ててくれたマジック界にお返しをしてゆこうと心に誓いました。

 しかし何をどうしたなら人の役に立つのか様々思案しているうちに、ふと、マジック雑誌、ザマジックをパラパラとみているときに、おや、と感じました。この雑誌は初めからしまいまで、トランプの絵と手の絵ばかりが描かれていて、全く人の人生や、人の生き方が書かれていないのです。

 普通、演劇雑誌や音楽雑誌なら、有名タレントが対談をして、生き方や、日々に身の処し方が書かれ、舞台の演技姿がグラビア写真でたくさん載っているものですが、ザマジックは、ものの見事に種仕掛けしか書かれていません。そうしたことの好きな人が買ってマジックを覚える雑誌ならそれでいいのですが、

 仮にこれを読んだ子供たちが、ここに書かれていることがすべてと勘違いして、プロになろうとしたらとんでもないことが起こると思いました。

 マジックのイフェクトだけにしか興味のない少年が、上京して、人との接し方も知らない。先輩との言葉の使い方も知らない。ほかのジャンルの人がどう苦労して生きてきたかも知らず、観客がなぜマジックを見にくるのかも知らない少年が、マジックさえできれば生きて行けると勘違いして、やみくもに活動しても、世間から叩かれまくって、全く相手にされず、ごみのように扱われて失意のうちにマジシャンの道をあきらめてゆく結果にしかなりません。

 イフェクトやトリックを学ぶことは楽しいことですが、それ以前に知っておかなければならないことは山のようにあります。それを誰が教えるのか。教えるにしても、上から目線でこうやって生きて行きなさいなどと書けば、若い人は反発します。何とか面白おかしく、くだらない話をしながら物の成り立ちを教えなければいけません。

 そこで、それが私の仕事かと、「そもプロ」を書く決意をしました。話は、プロになりたてのコワザ君が、ベテランでうるさ方で、少しインチキ臭い、スジ山金太郎を訪ねていろいろマジックについて質問をします。毎回、東京の有名な料理屋に行き、その料理がなぜうまいか、どうしてここに人が来るのかを実際料理を食べながら、スジ山が能書きをたれます。そうした話の中から徐々にマジックがどういう形で成り立っているのかを知って行くという話です。

 全編を通して語っていることは、マジックは種仕掛けを知っているだけではどうにもならない。不思議なマジックをしたから、と言って人は君のショウを買ってはくれない。観客にとんでもない夢の世界を作り上げて見せなければ仕事にはならない。と言うことを繰り返し語っています。

 

 正直、ザマジックのような雑誌に、私が物を書くことは無意味なのではないかと、文章を書きつつも悩みました。トランプの絵と手の絵にしか興味のないような子供たちに、生きることの難しさを語ることは、犬にパンツをはけ、散歩から帰ったら手を洗えと教えるようなもので、10年言っても、手も洗わずパンツもはこうとしないのではないかと思いました。

 しかし初回が出てすぐから反応はすさまじく。中学生や高校生社会人、あらゆるマジック愛好家から感動したという手紙をもらいました。(当時はメールがありませんから、みんな真面目に手紙を書いてきたのです)そして、「もっともっといろいろなことを教えてください」。と言うメッセージが来ました。

 そうなら、ひとつ気を入れて書いてやろうと、毎晩ステージの仕事から帰ってくると、ワープロ(当時はまだコンピュータがなかったのです)、の電源を入れ(ワープロはすぐには温まらず、始動に時間がかかりました)、この間に、ウイスキーの水割りを作り、さぁ、今晩はどんなことを書いてやろうと構想を練ります。このひと時が自分にとって至福の時でした。正直言って、このころは忙しくて、時間が足らなかったのですが、それでも真面目に雑誌の期限は遅らせることなく書き続けました。

 すると、地方都市の駅のプラットホームにいても、新幹線に座っていても、大学生や中学生から声をかけられるようになりました。「僕はザマジックが書店に出るころになると一週間前くらいから毎日本屋に行って早く本が来ないかと様子を見ています」「本が届くと必ず初めにそもプロを見ます」と言った素直な言葉から、子供で「一度コワザさんのように有名料理屋で食事がしたいのでごちそうして下さい」。図々しいのまでいます。そのうち、そもプロを読んでプロになる人が出てきます。これはあまり歓迎されることではありません。そもプロは疑似体験にすぎません。実際のプロ活動は、もっともっと過酷なのです。

 中には私のところに弟子入りを希望する人も出ました。これはもっと難しいことです。実際ずいぶん迷惑をかけてやめていった者もいます。どんなことでもすると言って、3か月持たないでやめた者もいます。それでも早く辞めた者は手間がかからないので助かります。人一人育てることは教える側も人生をかけなければならないことですので、簡単なことではありません。

 

 そもプロは11年書き続けて終わりました。終わった理由はザマジックが廃刊になったからです。本心はもう少し書きたかったのです。

 この時、11年の原稿をまとめて、同じタイトルで一冊の本にしました。その本が出たのが今から10年前(2010年)のことです。そもプロの本はよく売れました。「大学のクラブの部室にそもプロがあって、毎年の後輩がそれを見ています。」とか、熱心に毎回メールで感想を送ってくれる人がいました。続編依頼も多くありました。中には、高校生のころからの読者が、その後、会社の経営者になったり、弁護士になったりして、私を料理屋に招待してくれる時もありました。いい心がけだと思います。そして座敷で私の話を聞きながら、「ここ、ここ、この語り方がスジ山金太郎なんだよなぁ」、と言って、すっかりコワザの了見になって感慨に浸っている人がいたりします。

 今の今でもまだ「そもプロ」の本を持って楽屋に尋ねてきて、サインを求める人がいます。それも、マジシャンだけでなく、音楽家や、ジャグラー、俳優までもが自分の芸能に役に立つから、と言って「そもプロ」を購読してくれています。もう東京堂出版には在庫はないでしょうが、今もネットで結構取引されているようです。

 まぁ、「そもプロ」はこの20年、私にとって思いがけない楽しい経験につながりました。とんでもなく年齢の離れた人たちとも話ができるようになりました。私は、これでマジック界へのお返しの一つは達成できたと思いました。

 

 ところが最近の、ネットでの種明かしやマジックメーカーの無節操な販売を見ると、結果、昔とあまり変わっていないということに気づきます。マジシャンの活動は往々にして低俗で、人に夢や憧れを提供していません。なぜもっとゴージャスな活動を、若い人たちに提供できないないのでしょうか。マジックは夢の世界だ、とはよくマジシャンは言いますが、実際マジシャンの活動から夢を感じさせてくれる人がほとんどいないではありませんか。

 こんなことを続けていては、誰もマジック界に見向きもしなくなってしまうでしょう。そうならもう一度、私がマジックについて、何がよくて何がいけないか、どうしたらゴージャスな世界がつくり出せるのか、を詳しく書いてみようかと思います。

 

 せっかくブログで五千人ものアクセスが集まったのですから、人が私を求めていると判断して、今一度いろいろ書いてみます。

 ただしあれから20年もたちました。私は少し年を取りました。もう徹夜はできません。物を書くスピードはナメクジのように遅く、頭はトロく、性格はますますいい加減になってしまいました。どうか、気長に待ってください。確実に書いてゆきますから。

 

 さて私は、11月10日に福井市で開催される天一祭に出演します。ゲストはDr.レオン、ほかに精鋭の若手を何組か連れてゆきます。詳細は東京イリュージョンのネットをご覧ください。http://www.tokyoillusion.co.jp/index_j.html

 

 前日には、福井の子供歴史文化館に出演しています。ここは入場無料ですが、地元の子供たち優先ですし、席数にゆとりがありませんので、是非にと希望される方は、子供歴史文化館に直接お問い合わせください。

 

 それから、11月29日に、東京の座・高円寺で、私とナポレオンズマギー司郎の三組の会をいたします。40年以上の仲間です。昔の演技、今の演技、それに対談など致します。面白いものになるでしょうから来てください。そして。昭和の三組は置いておいて、我々は、令和の新しい三組を推薦しました。原大樹、片山幸宏、魔法使いアキットの三本です。次の時代のスターになる人たちです。彼らに演技をしてもらいましょう。どうか応援してください。詳細は東京イリュージョンをご覧ください。

 

 9月28日は、富士市で手妻とマジックの指導があります。

29日には名古屋のUGMで同様に手妻とマジックの指導をいたします。

30日は大阪で同様の指導をいたします。

 マジックは直接プロ指導を受けなければ本当のところはわからないのです。受講希望の方は、東京イリュージョンまで(http://www.tokyoillusion.co.jp/index_j.html )メールや電話をください。